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『時々帰りたい場所』
「ハクってさ、昔河の神だったんだよね〜」
にやにやとした表情で、千尋はハクに問いかけた。
「そ、そうだけど…なにか?」
千尋が異様に目を光らせていることに多少びくびくしながら、
何かを隠しているような素振りを見せている千尋の手もとを見た。
「ここ行こっ!ここ!」
手に持っているのは遊びガイドとやら。
指差しているのは「天竜川」という所。
おそらく「天竜」という所に心を打たれ、何かハクにつながりがあると思ったのだろう。
明後日ぐらいに確か休みが或る。
特に用事もないし、愛しい千尋に頼まれては嫌ともいえない。
しかし今更川に行ってもなんだし―――――
「ねっ?尾長!私昼御飯におにぎり作ってくから!」
ああもうノックアウト。
「分かったよ―――その約束は絶対だよ?」
「うん!」と嬉しそうに言う千尋の顔と言ったらまぁ…
ハクが失神してしまいそうなぐらい素敵な笑顔だったとか。
***
さて当日。
千尋の手作りのおにぎりをもって…天竜川へと向かった。
絶えることなく広く長く続く川。
ハクにはもう手の届かないもの。
帰りたくても帰れないもの。
翡翠色の澄んだ瞳が黒く止んだ。
川を奪われ名さえも奪われもう自分の行き先なんて分からなかった。
―――千尋と逢うまでは。
「この川にも主がいるんだよね……どんな神なのかな」
ハクはそれに答えるようにぐる、と喉を鳴らした。
「ハクは―――ハクのいた琥珀川はもう無くなっちゃったけど…大丈夫だよね」
千尋は角をより一層強く握った。
「私じゃ頼りないかもしれないけど…私がハクの川になる。故郷になるよ。」
生意気かもしれないけど、と千尋は笑った。
この娘は。
何処まで私を助けてくれるんだろう。
ハクは直ぐ近くの木陰に降りた。
「ありがと―――お腹すい…んっ」
木漏れ日に落ちる二つの影が重なった。
千尋も辛くなったら、悲しくなったら私のもとへいつでもおいで
私も千尋の故郷となるから……
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